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好きな映画を中心に日々感じたこと、あれこれ。
好き度:★★★★★
「Mother」
ある田舎町で起こった殺人事件の容疑者とされた一人息子トジュン(ウォンビン)の
無実を証明するために、真犯人探しに奔走する母親(キム・ヘジャ)を描く。
ポン・ジュノの天才なる証明。
計算され尽くした演出に魅せられ、最初から最後まで130分、スクリーンに釘付けだった。
犯人探しのくだりはサスペンスフルで、エンターテイメントとしても楽しめ、
同時に「母親」という生き物を徹底的に描く。
どのカットも無駄がなく、それとなく張られた伏線が見事に最後に収斂される。
なんという完璧さ。凄い映画だった。
見た直後は★4かなと感じたけれど、見てから1週間ぐらいこの映画のことが
頭から離れなかったので★5にしてみた。
オープニング。
枯野原で、音楽にあわせて奇妙に体を揺らし踊る母親の姿。
放心したかのような空ろな表情。これで一気に心つかまれた。
ざくざくと薬草を切る音。手元より外にいる息子が気になって気もそぞろな母。
見ている私は、いつ母親の指がざっくりいくかわからなくてずっとドキドキしていた。
そして、唐突に息子が車にはねられる。
と同時に、お約束のように指を切る。しかしそれもいとわず、脱兎のように飛び出す母。
このシークエンスだけで、母親がいかに息子を溺愛しているかがわかる。
息子は外見は大人だが、精神は少年のまま成長が止まっていて、母親はほうっておけない。
その純粋なくりっとした目は、母のそれとよく似ている。
「目がそっくりね」それが母の自慢なのだ。
目にいれても痛くないほどの息子が突如、殺人事件の犯人として逮捕される。
「息子が人を殺せるはずがない」
息子の無実を信じ、真犯人を探すためにやみくもにつきすすむ母。
疑わしい人物が次々に現れ、それを追っていき、
真実にたどりつくまでの過程は緊張の連続だった。
特に面白いと思ったのは液体がゆっくり流れるシーンが度々繰り返されるところ。
立小便をする息子のそばで、母親が流れる小便を見つめるシーン。
忍び込んだ息子の友人の部屋から逃げ出す時に、ペットボトルを倒し、
寝ている友人の指先に、水がゆっくり流れるシーン。
それらは血を連想させ、クライマックスにつながる。
母親を演じたキム・ヘジャの演技は、鬼気せまるものがあり、
冷静にみれば、狂気とも思えるその行動の数々を、
「母という生き物はこういものかもしれない」と、強引に納得させられてしまうのだ。
息子に対する愛情だけではなく、
息子をだました友人に対しても、「おなか、へってない?」と食べ物の心配をする。
そして、容疑者として逮捕された、自分の息子と同じ知的障害者の青年に対し、
「あなた、お母さんはいるの?」と涙を流す。
そして、トジュンを演じたウォンビンも素晴らしかった。
純粋なガラス玉のような眼は美しいが、まったく感情が読み取れないのだもの。
面会に来た母親に対し、彼女が忘れたかった過去を突然思い出し、
片目を隠しながら言うシーンは、怖かった。
そして、最後に母親に針を差し出すシーン。
彼は全て知っているのか?それとも、知らないのか?
母親もわからずいたたまれなくなるほど
その表情には、なんの感情の揺れもみえず、観客は想像するしかない。実に見事!
そして、ラストシーン。オープニングはここに通じるのか!と。
逆光の中、一心不乱にゆらゆらと踊る母親の姿。
メランコリックな音楽が、途中で転調した瞬間に涙がでた。
一切を背負い、これからも母親として生きていくしかない。
その人生に胸が締めつけられる。
この踊るシーンは、「歩いても歩いても」で、蝶を追う樹木希林ともかぶり。
何もかも忘れられるツボが本当にあるといい・・・・。
母親の業の深さを、生々しく見せつけられ、窒息しそうになりながらも
この映画に囚われて、しばし、気持ちが戻らなかった。
ポン・ジュノ監督作品は、これからも楽しみですねー!
| CINEMA(ハ行) | 16:49 | comments(2) | trackbacks(0) | ▲
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