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評価:
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好き度:★★★☆☆
2007年アカデミー外国映画賞受賞。
「この曲を本気で聴いた者は、悪人にはなれない。」
ベルリンの壁崩壊直前の旧東ドイツは、シュタージという組織を中心に
密告や盗聴により、徹底的に反政府思想を取り締まる監視国家だった。
ある芸術家のカップルを盗聴し、反体制である証拠を手に入れるよう命じられた
シュタージの敏腕局員、ヴィースラー大尉は、冷徹に職務をまっとうしようとするが、
盗聴器を通して日夜聞こえてくる彼らの自由な思想、愛の言葉、美しい音楽に触れることにより、
自分にとって思いもよらない感情の変化が生まれてくる・・・・。
自分の考えや思いを、そのまま表現できない。
誰かに密告されるかもしれない。どこかで盗聴されているかもしれない。
そんな見えない悪意に常に怯えながら生活する毎日。
ちょっと想像しただけで、暗澹たる気持ちになる。
そんな非人間的なシステムを維持するために働いていたヴィースラー大尉。
彼の気持ちをゆさぶったものはなんだろう?
最初は女優に対する淡い想いからだと思う。
彼女に、思わず接触し、直接アドバイスを与えてしまう。
それにより、彼女と恋人の絆がより強くなるのだが、
監視報告をよんで、その後の二人の展開を知り、
あたかも自分が作り上げた作品かのように、嬉しげにしていた彼が微笑ましかった。
文学や演劇や音楽を楽しみ、友人と議論したり、恋人と愛を交わす。
盗聴を通じて彼が初めて知る世界は、胸躍るもので。
国家のために忠誠を尽くすだけの灰色の毎日。
愛する家族も恋人もいない孤独だった男が色つきの世界を垣間みてしまったのだ。
あれだけ、忠誠を誓った組織を裏切り、二人を守ろうとしたのは
美しい自己犠牲などではなく。
ただ。
聞き続けていたかった。触れつづけたかった。
それは、彼がおそらく人生で初めて知った喜びなのだからだと思う。
この映画を見てびっくりしたのは
資料館に行ったら自分が盗聴されていた時の資料が見られるということ。
旧東ドイツの恥部であるというのに、この公開性にびっくり。
他人がつけていた自分の日記を読むみたいなもんでしょ・・・。
ヴィースラーが記していた監視報告書に、ある特徴があったのですが、
私、気づきませんでした〜・・・。後で知った。不覚。
それだからこそ、芸術家は自分を救ってくれたヴィースラーの存在に気づいたんですね。
「ヒトラーの贋札」の原作者であり、実際に偽札作りを強制されていた90歳のおじいちゃんが、
若者の間においてネオナチが台頭していることを憂いて、
過去の過ちを繰り返しちゃいけないってことで、方々で精力的に講演しているらしい。
こういった実際体験した人が語る一方で、今回この作品を作ったのは34歳の若い監督。
当時の記憶はあまりない若い世代が、過去の過ちを正面から見据えて、
かつ、これほど見応えある人間ドラマを作るのが素晴らしい!
ちゃんと、過去の苦しみや教訓が世代を経て引き継がれている。
日本は、それに比べ戦前と戦後の世代が分断されている気がするもんな〜。
ちょっと考えさせられた映画でした。