好き度:★★★★☆
「Angel in America」
有名な戯曲を錚々たる俳優陣で実現したTVムービーで、
エミー賞史上最多11部門を受賞した作品。
見ましたよ〜!6時間ぶっつづけ。
1980年代、エイズの蔓延が社会に暗い影を落としたアメリカ。
エイズに苦しむゲイ・コミュニティーの人とその家族を中心に
生きていくということの意味を我々に問いかける傑作。
アメリカ発でこんなにインテリジェンス溢れる作品に遭遇したことは
これまでなかったので驚きです。
出てくる人は、ゲイ、ユダヤ人、モルモン教徒、黒人、エイズ患者など
ほとんどがマイノリティー。
自由の国と謳いながらも、実は手が届かないところに自由は掲げられているアメリカ。
彼らの苦悩を理解するためには、アメリカの歴史、宗教、政治、モラル、
そして人種差別問題などの知識がないと結構、難しい。
私も半分くらいしか理解できてないと思います。
例えば、宗教。
カトリック、プロテスタント、モルモン教、ユダヤ教。
それぞれ、どんな戒律があり、どれほど個人の人生に影響するものなのか。
どのような階級に信者が多いのか。
お互いにどのような感情を持っているのか。
宗教観が異なっていても個人的関係を深めることはできるのか。
そして80年代のアメリカの空気感。
エイズが発生し始め、原因もわからない不治の病とされていた頃。
同時に、ミレニアムを前に「世界は終わってしまうのではないか?」という
人々の終末的思想に対する意味のない恐れは
そのままエイズに対する恐れとシンクロしていく。
エイズの蔓延は神の怒りではないのか?
最初は麻薬患者やゲイの人々から発症し始めたので、
かなりの偏見が伴い、発症した者はその社会的地位を奪われていった。
深くて難しいテーマを取り扱っているのですが、
一人が何役もこなす名優の卓越した演技と、
幻想的なシーンが織り込まれることによって娯楽作品としても楽しめます。
なんといってもこれが初共演だというアル・パチーノとメリル・ストリープの場面が
圧巻
アル・パチーノ演じる法曹界の黒幕ロイ・カーン弁護士。
エイズに倒れた彼をせせら笑うかのように枕元に立つ幽霊をメリル・ストリープが演じる。
彼女はスパイとして彼に電気椅子送りにされたエセル・ローネンバーグの幽霊。
ローネンバーグ事件と知られた両方実在の人物です。
エセルに関しては、本来なら終身刑というところを、赤狩りの急先鋒であったロイが
あらゆる手を使い強引に彼女を死刑に処するように動いたとされているそうです。
とてもアクの強い傲慢な男を、アル・パチーノが全身全霊力いっぱい演じるのだから、
それはもうド迫力!
かたや、メリル・ストリープは憎い相手が病床で苦しむ姿を、ニヤニヤしながら
嬉しそうに見つめる。その気味悪さといったら・・・・。
激しくは表現してませんが、抑えた底知れぬ憎悪を感じてぞ〜っとします。
触れれば火傷するような緊張感の中での
お互いの研ぎ澄まされた演技力のぶつかりあい。
今までみたことのない程のレベルの高さに、鳥肌立ちました。
最後に、天使の前で主人公が、自分の選択を告げます。
「進歩を止めよ」
それが人類に対する天のお告げであろうとも。
進歩をとめることはない。
我々を見捨てた神をこそ、訴える。
偏見と悲しみと苦しみに満ちた世界ではあっても
それでも、前へ進み、生きていきたい。
関わりあう人々と共に、少しの希望を糧に。
真実のメッセージは、諸々こ難しいことがあっても
それをとっぱらって、心に響くものですね。
驚嘆に値する作品でした。(・・・でも疲れた・・
)