ドラマ「SP」で気になった北村有起哉氏を観たくて久しぶりに観劇。
「欲望という名の電車」 タイトルだけは知っていたけれど未見で、何も情報がないまま見ました。
舞台は1950年代のアメリカ、ニューオリンズ。
かつては南部のお金持ちであったが、南北戦争後、没落した家の女性ブランチ(篠井英介)が主人公。
彼女はある夏の日に、突然妹であるステラ(小島聖)の前に現れ、彼女の家に居候することになる。
ステラの夫、スタンリー(北村有起哉)は、ポーランド系で粗野で生命エネルギーあふれる工場労働者で、
彼の粗忽な振る舞いは、ブランチにとっては理解しがたく、受け入れることができない。
スタンリーも、ことあるごとに仰々しいくらい上品ぶるブランチが目障りでしょうがない。
不安定なバランスでの3人の共同生活。
やがて、スタンリーはブランチがひたかくす過去を探り、それを暴き出す。
自分を守るため、必死の思いで身にまとっていた矜持の衣を、
ブランチは一枚一枚脱がされていく。
そして、最後の一枚を剥がされた彼女は、とうとう壊れてしまう・・・。
久しぶりに実力者の演技力のぶつかりあいを堪能できるいい作品でした。
幕間はさみ3時間は私にとっては長尺なのですが、
最後まで作品世界に引き込まれました。
篠井さん演じるブランチが何より切なく、男性が演じているなんて感じられないくらいエレガントでした。
光輝くばかりの美貌と品性を持っていた若い頃の自分を忘れられない女性の滑稽さ。
そして現在、衰えかけた容色に死ぬほど怯えながらそれにしがみつかずにはいられない女性の悲哀。
「誰かのご厚意にすがって生きていくしかないのです。」
この台詞は切なかった・・・・。
北村さんのスタンリーも、生命エネルギーあふれる男で迫力ありました。
ついかっとなってステラを殴ってしまった後、後悔して追いかけ
彼女を抱きしめるシーンがよかったなあ。
小島さんのステラも、優しくて慈愛にあふれて柔らかな女性をうまく演じてたと思います。
舞台となるボロアパートは、線路のすぐそばにあり、電車が通過すると会話もできないくらいうるさい。
電車の音が上手下手のスピーカーを使って、本当に通り過ぎるように聞こえるのは面白かったです。
ただ、設定が40度も超える真夏の日々であり、
そのうだるような暑さの中、空調もきかない狭い部屋での人間関係。
だからこそ、スタンリーのブランチに対するいらだちは、加速していく。
その熱が感じられなかったのが残念でした。
ラスト、どうしてもそこまでスタンリーがブランチを追い詰めるのかがピンとこず、
ただただ、ブランチがかわいそう・・・で終わってしまったので。
ブランチ役を演じるのは女優冥利につきるでしょうねぇ。
ちょっと調べたら今まで演じた女優はそうそうたる面々。
杉村春子、大竹しのぶ、樋口可南子、栗原小巻などなど。
篠井さんは杉村春子さんの舞台を見て感動して、
どうしてもブランチをやりたいと思ったそうで。
ただ、「女役は女優、男役は男優が演じること」という作者の遺言があり、
著作権者の上演許可が最初でなかったそうです。
でも、その著作権者に演技をみてもらい、ようやく上演にこぎつけたとのこと。
その強い思いを、感じられる演技でした。
ちなみに杉村春子さんの相手役は故北村和夫さん。
今回、親子2代でスタンリーを演じることになったというのも面白いなあ。