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『ぐるりのこと。』


好き度:★★★★☆

『めんどうくさいけど、いとおしい。 いろいろあるけど、一緒にいたい。』

「ハッシュ!」以来6年ぶりの橋口監督作品。
その間に監督は鬱病に苦しんだそうだけれども、
これほど限りない優しさに満ちた作品を届けてくれた。
それだけで、本当にありがとう(感涙)といいたくなる素晴らしい映画でした。

リリー・フランキーって才能あふれる人だし、実生活でもかなりモテるだろうと思う。
だらしなくて、とらえどころがなくて、もういい加減疲れちゃったな〜と
別れようとするまさにその瞬間に、これ以上のない優しさをくれたりする。
こういう男に惚れてしまったら女はなかなか離れられない。
カナオのキャラもそれに近いものがあり、
本当に自然体で演じているように見える彼は、適役だと思った。

しっかり者の翔子(木村多江)とちょっと頼りないカナオ(リリー・フランキー)。
10年の月日にわたる二人の夫婦の絆、愛を描いた作品。

以下、ネタバレ含みます。
早いうちに父親が出奔したため、
兄は父親代わりにならなければという気負いが強く、
兄嫁もかなりキツイ性格で母親と折り合いが悪い、
なんだかぎくしゃくしている翔子の家族関係。
そんな中、ふうわりとした、てらいのない優しさを持ち込むカナオ。
中華料理店で子供をあやすシーンは素敵でした。
あんな男、やめたほうがいいんじゃないと周りからいくら言われても
そんななにげない彼の優しさを彼女は心から愛しているとわかる。

そして、二人にふりかかる、初めての子供を失うという不幸。
何事もちゃんとしなければ気がすまない翔子は、これを機に
自分を追い詰め、少しずつ心を病み、欝病になってしまう。

そんな彼女の傍らにただ淡々と寄り添うカナオ。

何も言わずにただそばにいる夫を翔子はどんなふうに感じていたのか。
一人でいる時に感じる孤独より二人でいる時に感じる孤独のほうが時にはより痛い。
彼女はずっと心で悲鳴をあげ続けていた。
「ちゃんとやらなきゃ・・・。私がしっかりしなきゃ。」

ある嵐の夜に、そんな声なき悲鳴を翔子はようやくぶつける。
そして、それを優しく受け止めるカナオ。

「どうして私のそばにいてくれるの・・・・?」
「それは好きだから、そばにいたいんだよ・・・・。」

このシーンは涙がとまらなかった。

それから、翔子はゆっくりと だが、確実に 生きる力を取り戻していく。

点ててくれたお茶を美味しいと素直に思える。
お米を研ぐこともままならかったのに、
ふっくらと炊き上がった白いご飯の香りを胸いっぱい吸い込む。
そして、生命の息吹をキャンバスに写し取ろうと美しい色の絵の具を選ぶ。

一歩ずつ、彼女が再生していく姿は本当に美しかった。

だんだんと生気を失い、静かに壊れていく無の表情。
いえなかった悲しみを泣きじゃくりながら搾り出すさま。
そして、暗闇の中からようやく抜け出し、
生まれ変わったように静謐な光に満ちた微笑。
ひとつひとつの翔子の感情が、心に迫ってきた。時には痛みを感じるほど。
この難しい役どころを初主演で演じきった木村多江は本当に素晴らしいと思う。
まさに身を削る思いで演じたことだろう。

ラスト近くの絵画教室のシーン。
それまで好みの女性がいるとすぐそばに寄り、こなをかけていたのだが、
いま、カナオの視線の先にいるのはキャンバスに一生懸命むかう翔子であった。
その横顔は、輝くばかりに美しく生き生きとしている。
そんな彼女から目が離せないカナオもまたとても幸せそうだ・・・。

作品は1993年冬からの10年間の夫婦の軌跡を描いている。
同時に法廷画家であるカナオの目の前で
世の中を震撼させた有名な事件を思い起こさせる公判シーンが次々に再現される。
この被告役も加瀬亮や片岡礼子など実力派の俳優がきっちり演じ、
多分事実もこうであったのだろうと予想できる程、リアルであった。

一般のモラルが通じない加害者の闇。
不条理に愛する者を奪われた遺族の悲痛な叫び。

そんな暗い時代の流れを法廷画家であるカナオはただ黙って絵に描いていく。

この暗い時代を、我々はどうやって生きていけばいいのか?
自身もおそらく苦しんだ末に、
監督は「希望」 言い換えれば 「生きる術」を私たちに示してくれた。
それはそばにいる大切な人との絆に他ならない。

全て受け入れ、逃げずに、ただ隣にいる。
そして、ときどき手を握って自分の体温を相手に伝えるだけでいい。
夫婦ってそんなものかもしれませんね。

(未経験のくせに〜というツッコミはなしでひとつ・・・)

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| - | 22:08 | - | - |

Comment

深くみてますね。
監督の描きたいことを
よく理解してるんじゃないのかなと感じます。

また、ちょくちょく読みに来ますね。

| LoveLetter(こいふみ) | 2008/07/01 1:25 AM |

>LoveLetter(こいふみ)さん

コメントありがとうございます!

あまりにも素敵な作品だったため、書きたいことがかなりあって
なんだかレビューは空回りしている気がします(笑)
翔子はすなわち監督自身の姿なのだそう。

>また、ちょくちょく読みに来ますね。
是非是非いらしてください^^

| Minita | 2008/07/01 12:28 PM |

Minitaさん、こんにちは。コメントとTBをありがとうございました。
私も、翔子が炊き上がったご飯の匂いをかぐ場面、とっても印象に残りました。
生きるって、そういうことだな〜って。
翔子が再生していく姿が丁寧に描かれていてとってもよかった。
苦しい人がいて、その人に寄り添うこともまたとても苦しいこと。
乗り越えた二人の絆はホンモノですね。
素晴らしい映画でした。ではでは、また来ますね。

| 真紅 | 2008/07/01 12:32 PM |

>真紅さん

コメント&TBありがとうございました!

そうそうご飯のシーン、印象的でしたよね。
そんな何気ない日常の積み重ねこそが生きるってことだと
私も思います。

「何があっても絶対離れない」そんな絆を誰かと
結べたらホントいいな〜とこの映画を見てしみじみ思いました・・・。

| Minita | 2008/07/01 1:10 PM |

興味深く読ませてもらいました。
確かにカナオは、悲観するでもなく感情的になるのでもなく、ただ黙って絵を描いていましたよね。その部分は印象に残っています。

炊きあがったご飯の香りを嗅ぐ場面では、「ハッシュ!」の、淹れたコーヒーの湯気に包まれながら、その香りを吸い込む場面を思い出しました。橋口監督は日常の小さな幸せを撮るのが巧い監督ですよね。

「イースタン・プロミス」のレビューを愉しみに待ってます!

| ライカ犬 | 2008/07/02 12:10 AM |

「ぐるりのこと。」は、MINTAさんの感性そのものなのですね。
私も言葉の優しい、穏やかな、怒らない男の人が欲しいですw
おしゃべりじゃなく、無口じゃなく。。カナオじゃなく!? じゃ誰?w

| ローズ | 2008/07/02 12:35 AM |

>ライカ犬さん

コメントどうもありがとうございます!

そうですね。日常の何気ないシーンがキラリと光りますね。
私、最初の二人が会話する長回しのシーンも結構好きです。
次回作ものんびり気長に待ちたいと思います(笑)

>「イースタン・プロミス」のレビューを愉しみに待ってます!

う。プレッシャー(笑)
痛いのが苦手ということと、クローネンバーグ監督の
「戦慄の絆」がトラウマで・・・・。
でも、頑張って見に行ってきます!(体調万全時に)

| Minita | 2008/07/02 12:20 PM |

>ローズさん

コメントどうもありがとうございます!

>「ぐるりのこと。」は、MINTAさんの感性そのもの
そうかもしれません。これほど、感情が揺さぶられた作品は
久しぶりだったんですよ・・・・。

>私も言葉の優しい、穏やかな、怒らない男の人が欲しいですw
な、なんだか重みのある言葉です(笑)
今度ゆっくりお話きかせてください〜!!

そうですね〜。会話できる人ってのは重要ですね。
あと、手をなめなくて済む人かな!(爆)

| Minita | 2008/07/02 12:30 PM |

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| 真紅のthinkingdays | 2008/07/01 12:21 PM |