好き度:★★★★☆石油採掘により巨大な富と権力を手中におさめ、
アメリカンドリームを実現した男の狂気溢れる生きざまを描く人間ドラマ。
映画冒頭から神経にさわる不協和音のような音楽が鳴り響き、
スクリーン上に流れる不穏な空気は客席まで忍び寄ってくる。
突如、強烈な爆発音と共に地中から勢いよく噴出す石油はまるで黒い血のよう。
それは、プレインビュー(ダニエル・デイ=ルイス)の体にも降り注ぎ、
その瞬間、富と権力を約束された男の額に悪魔が降臨したかのような印が光る。
これからの彼の人生に不吉な予感を感じ、
我々はあっというまに彼のどす黒い人生にひきこまれてしまう。
それからのプレインビューはすさまじさといったら!!
利権にからみ障害となる者を、欺き、攻撃し、力でねじ伏せ、
情けを乞い跪く者を、あざ笑い、尊厳までも踏みにじる。
富と権力の高みに昇るにつれ、どす黒い感情がどんどん彼の血や肉になっていくようだ。
結果、いつしか自分の息子までも遠ざけることになる。
成人してからの息子とコミュニケーションするのでも手話通訳を介さないと不可能。
これだけ長い時間を共有しても、息子のために手話のひとつも覚えてない。
とっても殺伐としたものを感じた。
しかし、プレインビューの息子に対する愛情は確かに存在したように思える。
きっと自分でも気づいていないけれど、彼が感情を爆発させるのは
必ずいつも息子のことが関わっていた時だ。
牧師のイーライに対し、あれほどまでに憎悪をむき出しにするもの
過去に彼に屈辱的な懺悔を強制されたことが大きいと思う。
(「私は息子を見捨てた!」とか連呼させられちゃね・・・・。)
そして
ラストのプレインビューのイーライに対する咆哮。
あれほどまでに憎悪を他人に対して垂れ流す人間をみたことがない。
しかし、周りにいたら絶対関わりたくない、残酷で冷酷で猜疑心の強いこの男から、
何故か目が離せず惹きつけられる。
怒涛の感情の渦に巻き込まれ、気がついたら150分経過していたという感じ。
とにかく、ダニエル・デイ=ルイスの演技が突出しているのですが、
天敵イーライを演じたポール・ダノも素晴らしかったです。
私、本気で最大級の嫌悪感をおぼえましたよ。
だから、ラストでは少し胸のすく思いがしたのかもしれない(笑)
そして、ポール・トーマス・アンダーソン監督の演出力も凄い!
「ブギーナイツ」が結構好きだったのですが、これほど力量のある監督とは・・・!
これからの作品がとても楽しみ